• 油井和徳

なぜ山谷のドヤに生活保護を受給している人が多く暮らしているのか?


コロナ関連の報道が世間を覆いつくしていますが、山友会もいまだに落ち着かない日々です。

私が施設長を務める山友荘では、発熱などで感染疑いの入居者が発生した場合には、原則としてPCR検査を行うのですが、検査結果が出るまでは他の入居者への感染を防ぐために、なるべくお部屋から出ないで過ごしてもらわなければなりません。


認知症などのためにそれが難しい方もいるので、お部屋から出てくれば戻ってもらうように促したり、ご本人が触れた箇所を消毒したりしなければなりません。通常の職員体制ではそれは難しいので、その間は臨時で誰かが付きっきりとなって対応するようにしています。


私は通常のシフトに入ることが少ないので、この一年で何度かその対応にあたって、しばらく家に帰れない日もありました。

さらには、年明け以降は山谷地域のいくつかのドヤなどで感染者が発生して、地域としても緊張感が高まっていて、気が抜けない日々が続いています。



さて、コロナ禍の一年で山谷の風景も少し変わりました。

外国人観光客や東京に出張や観光に来たような方の姿を見かけることも少なくなりました。

観光客向けにビジネスホテルにリノベーションしたドヤも生活保護受給者の受け入れ始めているようです。

※参考:

ヤマ王とドヤ王 東京山谷をつくった男たち 第十一回 漂流する風俗嬢

ヤマ王とドヤ王 東京山谷をつくった男たち 第十二回 犯罪者を送り込まれた宿主の苦悩

客層が変わったことで苦労されながら経営を続けられているようです。

山友会でも、コロナ禍の影響で新たに路上生活されるようになって生活保護を受給した方などのうち従来のドヤへの宿泊は抵抗感があるという方に、生活保護受給者の受け入れを始めたビジネスホテルをご紹介することがあります。

さて、そもそも、なぜドヤやビジネスホテルに生活保護を受給した方が住むようになるのかということを今回はお話したいと思います。


生活保護を申請した段階で路上生活など住まいがない状態でもすぐにアパートなどに入居できればよいのでしょうが、現実的にはかなりハードルが高いです。

なかには、そうした方でも対応してくれる良心的な不動産屋さんもごくわずかながらいるようです。

※参考:

「ホームレスに車上生活者、居場所なくした人々の家探しは今」(楽待不動産投資新聞|2020年5月20日)

それには、そもそもそうした方でも入居可能な物件自体がかなり限られてしまっていることや、路上生活をはじめ生活困窮状態に至る過程で親族などとの関係が途絶えてしまっている場合が多いため保証人や緊急連絡先をお願いできるような人もいないという事情があります。


さらに、仮にこうした問題をクリアして生活保護の申請時にアパートに入居できるような準備があったとしても、福祉事務所はなかなかそれを認めたがらないということも、よりハードルを高くしてしまっています。


福祉事務所が保護開始時に住まいのない方のアパート入居に難色を示すのがなぜなのかは、実のところはよくわかりません。

路上生活をしている、住まいがないという状態であることでアパート生活を行う能力がなかったと判断されてしまっているから、保護開始の段階で入居時に発生する敷金・礼金分の一時金を支給したくないからなど、いろいろと言われていますが、何にせよ、科学的・合理的な判断がなされているとは考えられないので、何となく心配という心理的な抵抗感が影響しているのかなと思っています。

このほかにも、職員や福祉事務所として路上生活の方に差別的な処遇をしてしまっているということや、路上生活の方はまず施設に入所させるという機械的な対応になっているということもあるのかもしれません。

アパート入居のハードルが高くなっているこれらの事情の影響で、住まいのない人が生活保護の申請をすると、住まいがないために生活保護法内の施設や無料低額宿泊所への入所を案内されることが多いようです。

こういった施設は相部屋が多く集団生活となることから、施設での生活は避けたいという方のなかにはドヤやビジネスホテルでの宿泊を希望される方もいます。

ちなみに、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、厚生労働省は感染防止のため、原則個室の施設へ入所させるよう通知を出しているようです。

※参考:

「<新型コロナ>困窮者の宿泊所、感染対策に懸念 高齢者多く、相部屋で「3密」も」(東京新聞|2020年5月14日)

ホームレス支援団体のなかには、住まいのない方でも生活保護申請時に直接アパートに入れるように良心的な不動産屋と連携して福祉事務所に働きかけを行っている団体があったり、ハウジングファーストと呼ばれる施設入所前提ではなく、アパートなど生活の基盤となる住まいを確保することを前提にした支援を行っている団体もあります。

※参考:

ハウジングファースト東京プロジェクト

ただし、ドヤやビジネスホテルもどこでもよいというわけではなく、住宅扶助の基準額内の宿泊費のところでなければ認められません。


東京23区の住宅扶助の上限額(単身者)は、月53,700円(30日の日割りで1,790円)。

ドヤの宿泊費は1泊2,000円~2,200円と聞いたことのある方だと、月額で住宅扶助の基準額をオーバーしてしまうのでは…と思われるでしょうが、そこで住宅扶助の特別基準というものが適用されます。


基本的には基準内の金額で住宅扶助が認定されるのですが、「限度額によりがたい家賃、間代、地代等であって、世帯員数、世帯員の状況、当該地域の住宅事情によりやむを得ないと認められるものについては、限度額に1.3を乗じて得た額の範囲内において、特別基準の設定があったものとして、必要な額を認定することができる」という特別ルールのようなものがあるのです。


これによって、さきほどの上限額53,700円に1.3を乗じると69,800円。つまり30日計算の日割りで2,326円まで、31日計算の日割りで2,251円までは認められるということになります。これによって、生活保護を受給している方がドヤに宿泊できるようになっているわけです。ビジネスホテルに関しても同じような運用になっているようです。もっともビジネスホテルでそこまで安価な宿泊費のところはかなり限られるのでしょうけど。


そもそも、ドヤやビジネスホテルが住まいのない生活保護者の方を受け入れているのには、バブル崩壊以降に生活保護受給者が急増したため、例外的な対応として路上生活など住まいのない生活保護受給者をドヤで受け入れ始めたといういきさつがあります。

現在、山谷地域のドヤには約3,800人の方が宿泊しており、そのうち約9割の人が生活保護を受給していると言われています。また、約9割の人が1年以上宿泊している(ちなみに最も多い居住年数分類は10年以上の40.3%)とのことで、仮住まいではなく実のところは住居としてドヤを利用している状況です。

※出典:山谷地域簡易宿所宿泊者生活実態調査(平成30年10月調査)東京都福祉保健局


この状況には大きく分けて2つの背景があると考えられます。

1.入居差別の問題

一つ目は、ドヤからアパートなどの民間賃貸物件に転居しようにも、生活保護受給者や高齢者、障害者などの入居に対して大家に抵抗感があるため、なかなか転居できないという入居差別の問題です。

国土交通省の資料によれば、家賃滞納、孤独死、事故・騒音等への不安から、単身の高齢者に対しては65%、生活保護受給者に対しては60%の大家が入居拒否感があるようです。


※出典:新たな住宅セーフティネット制度(平成29年7月 国土交通省住宅局)

※住宅確保用配慮者…2017年改正の住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)において住宅法において、住宅確保要配慮者とは「低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯」と定められている。(法第二条)

2017年には住宅セーフティネット法(住宅確保用配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)が改正され、

① 住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の登録制度

② 登録住宅改修や入居者への経済的支援

③ 住宅確保要配慮者の居住支援

が行われていますが、状況が大きく改善されているとは言えない状況のようです。



※出典:大家さん向け住宅確保要配慮者受け入れハンドブック(国土交通省|令和2年3月)

2.地域の住宅事情・低所得者の入居可能な住まいの絶対的不足

二つ目は、地域によっては生活保護基準内の物件が限られているということです。

先ほど、住宅扶助の基準額について触れましたが、基準上限額の53,700円(特別基準69,800円)で入居可能な賃貸物件は山谷地域のある台東区ではかなり限られてしまいます。

もちろんまったくないというわけではないのですが、ドヤで暮らす約3,800人の受け皿にはなりえません。

山谷地域のある台東区のワンルーム・1K・1DK/マンション・アパート・一戸建て家賃相場は23区中6位(10.02万円)とそれなりに高いみたいです。

※出典:

LIFUL HOME'S 東京23区の家賃相場情報(ワンルーム・1K・1DK/マンション・アパート・一戸建ての相場表)

さらに、本来であれば、住宅確保要配慮者の受け皿となるはずの公営住宅も都市部では不足している状況です。


※出典:新たな住宅セーフティネット制度(平成29年7月 国土交通省住宅局)

山友会と関わりのあったおじさんの中でも、都営住宅に入居できた方もわずかにいますが、23区の中でも山谷地域から離れた地域の都営住宅への入居となり、その後の関わりが薄くなってしまうことがあります。

つまり、公営住宅に入居できたとしても、住み慣れた地域やコミュニティから離れなければならないことがあるということです。

また、これらの社会的な背景だけでなく、山谷のような寄せ場で暮らしてきた方にとってはドヤが慣れた環境であることや、昔馴染みの仲間が多いという事情があったり、ドヤには帳場がいるので完全な一人暮らしとなるよりは安心だという支援者側の都合もあったりするとは思います。

ただし、後者については、ドヤでの生活が長期化する要因の一つではあるかと思いますが、ドヤで長期間生活する人を増やしている要因というわけではないのかなと思っています。

さて、ここまで書くと、どうやってこの問題を解決していくのかということも気になるところではありますが、さらに長くなってしまいそうなので、それはまた別の機会に…。

実はこの続きを書いてみようと何度かトライしたのですが、空き屋の現状や空き家対策の政策など不勉強な分野のことも多く、思いつきでいい加減なこと書いてしまいそうだったので断念しました(苦笑)

それではまたの機会に。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

(副代表 油井)

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