ここに来て大きく変わった

一体、誰がこんなことを予測しえただろうか。


昨年から世界中に蔓延し始めた新種のウイルスは、現在進行形で私たちの生活を蝕み続けている。他国では無料のPCR検査が広がりワクチン接種率も上がる中、日本では緊急事態宣言を繰り返すばかりで、むしろ感染者人数は1年前よりも増加する一方である。


そんなコロナ禍の中で人生が大きく変わり、山友会に出会った人がいる。



藤井さん(仮名)と呼ばれるその方は、穏やかな佇まいと優しい笑顔でその日も相談室を訪ねてくれた。藤井さんが初めて山友会に訪れたのは昨年の10月初旬、今から半年ほど前のことであるが、山友会を初めて知ったのは浅草の川沿いで佇んでいたときのことだった。


「人生嫌になっちゃったな、って考えていたときに声かけられて、お弁当をもらって。その後、お弁当をくれた方が16時くらいにまた戻ってきてくれて、山友会の話をしてくれました。」


コロナ前は派遣の仕事をやっていたそうだが、コロナの影響で仕事がめっきり減った。


「派遣以外の仕事をする機会もあったけど、年齢のことを考えると勇気がでなくて。派遣を続けていたらこんなことになってしまった。」


仕事がなくなり、初めて路上に出たのが浅草だった。


「話しかけられたときは、こういうお弁当の配給をやってるんだ、と思いました。

足を怪我して2、3日そこにいたときに本当にたまたま出会って。路上生活が始まって1週間くらいだったので、恵まれていました。何かしらの支援を区役所がやっていたことは知っていたのですが、あんまり期待していなかったのと、雰囲気が苦手で一人では行けませんでした。色んなことに本当に恵まれていたと思います。ここに来て大きく変わった。感謝しかないです。」

この日、“感謝”という言葉を何度も、何度も耳にした。


藤井さんの出身は北海道で、高校卒業後に就職で東京に上京されたそうだ。

上京して一番最初に働いたのは工場。それ以降も工場関係の仕事が多かったという。


「東京は田舎と比べると、ある意味ドライで濃い関係がない分、気が楽でした。東京に兄貴もいるけど、自立するまでは連絡できないと思ってしていません。区役所の方に兄貴からの連絡が来ていたのを知ったときは意外でした。普段からメールのやり取りは時々していたので、きっと心配しているのかな。心配をかけていることが気が重いです。でも家族だし、兄弟だから、自分のタイミングで自立してから連絡しようかな、と思っています。」


現在、藤井さんは山谷にあるホテルに住み、週に2、3回ほど、お昼頃に山友会を訪れている。午前中はクリニックを受診するおじさん達が多くいるため、人が少なくなる午後に来るようにしているそうだ。


「山友会の皆さんは温かいです。行くと、いらっしゃい、と言ってくれるのが嬉しい。

自分は社交的じゃないので、薗部さんや後藤さんをはじめ、みなさんいつも話かけてくれるのが嬉しいです。山友会は疲れない、笑い話なんかして気楽です。」


山友会と出会ってからの、ご自身の変化についても話して下さった。


「山友会に紹介してもらった精神科にも通って、体調が良くなってきています。先生もやさしくて、行きやすくて。本当に恵まれたなあ、と思います。今、住んでいるところも良いし、悩みも少なくなってきました。この半年で死にたい、という気持ちはなくなって、今は早く自立したいという気持ちです。出会った人や環境の影響は大きいと思います。山友会のおかげです。みなさまの温かい言葉のおかげでがんばらなきゃ、という気持ちになれました。元気になれました。辛かったときのことを思い出せば、何でも大丈夫かもしれないと思えるようになってきました。あの頃はお金のことばかり考えて、情けなくて、毎日辛かったです。

ここに来る前は一人で考え込むことが多かったんですが、今は何かあったら何でも相談してね、って言ってくれる人がいて心強いです。」



最近の楽しみについても尋ねてみた。


「若い頃、浅草寺良いとこだな、と思って一時期行っていたのですが、今でも浅草寺はお気に入りかも。ここから歩いて30分くらいなので、浅草寺に散歩しに行ったりもします。歩くことは好きです。お医者さんにも歩くように、と言われているので歩くようにしています。」


「一番の楽しみは、菌部さんや後藤さんと話すことかな。後藤さんはいろいろとぶち込んでくる方なので楽しいです(笑)気を遣って話してくれてるんだな、と優しさを感じています。頼れる友人のような存在です。家族以外では、こんな親身になって助けてくれる存在は初めて出会いました。いつも必ず名前を間違えて呼んでくるのがお約束のやり取りです(笑)

菌部さんもちょくちょく、五目並べしようと声かけたりしてくれて。最近は、他の方とも五目並べなんかして楽しいです。人と直接やるのが楽しい。負けると悔しいな、なんて思ったり。」


山友会での様々な出会いを楽しんでいるようだ。


写真部や野菜作りなどの活動があることもお伝えすると、ちゃんとしたカメラで撮ったことはあんまりないから楽しそう、野菜作りにも興味あります、と新しいことにも前向きな様子が窺えた。


最後に山友会に対する思いを話してくれた。


「山友会のみなさんには感謝しかありません。助けてもらったので。みなさんのおかげです。自立したい想いはありますが、焦んないで良いよ、と言われると安心します。何度も、「焦らないで」「今はとにかく病気を治そう」と言ってくれて。前向きに頑張っていきたいです。山友会のみなさんに出会えてよかったです。」


とても謙虚で、真面目な藤井さん。

自立して、良い人間関係のある職場で働くことが今の夢だと語ってくれた。


藤井さんが撮影した浅草寺の写真を見る日も、そう遠くはないかもしれない。



インタビュー・記事作成

広報支援チームやまともボランティア

金 宣希


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