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日常生活支援住居施設は地域に何をもたらすのか

副代表の油井です。

またしてもひどい遅筆で、コラムをお届けするのが大幅に遅れてしまいました…。

毎度、すみません…。


さて、今回のコラムでは一般社団法人全国日常生活支援住居施設協議会が1月に開催した日常生活支援住居施設管理者等資質向上研修にて山友会の運営する日常生活支援住居施設「山友荘」の実践についてお話する機会があったので、今回はその内容を少しご紹介したいと思います。


平成30年に社会福祉法および生活保護法が改正され、路上生活者など住まいのない生活保護受給者の受け皿となっていた無料低額宿泊所のうち、「貧困ビジネス」のような劣悪な施設への規制強化が行われるとともに、単独での生活が困難とされる人々を支援するような無料低額宿泊所を都道府県が「日常生活支援住居施設」と認定し、日常生活上の支援を委託できる仕組みが創設されました。



無料低額宿泊所の届出により、介護が必要である方や病気や障害のため一人で暮らすことが難しくなった方のための住まいと生活支援を提供してきた山友荘も、令和2年10月より東京都から日常生活支援住居施設の認定を受けて運営しています。


さきほどの「日常生活支援住居施設管理者等資質向上研修」は、令和2年10月より日常生活支援住居施設への支援委託が開始されることに伴い、その支援に関わる日常生活支援住居施設の管理職員等の資質向上のために開催されたものです。

各地の実践についてということで、山友荘の日常生活支援の実践と考え方について報告させていただきました。


ちょっと長い文章になってしまったので、目次をつけておきます。


​<目次>



1.日常生活支援住居施設「山友荘」の概要

※施設外観

山友荘の入所対象は単身男性。定員21名の施設です。

山友会事務所近くにあったドヤをお借りしてリノベーションしています。古い建物ではありますが、街並みを崩さずに地域に溶け込んでいるのがいいのかなと思っています。もちろん、改修時に耐震補強を行ったり、開設後にスプリンクラーを設置したりと耐震や防火対策は行っています。

間取りは食堂などの共用部分を新設したほか、ドヤの間取りをほぼそのまま使っています。

居室は3畳1間の個室です。ベッドとテレビ、冷暖房、ナースコールが各居室に備え付けられています。



施設の入居者は、

・高齢、障害や病気などにより単身での地域生活が困難な方

・ホームレス状態から山友会と関係が継続している支援対象者の方で、単身生活が困難となったものの、住み慣れたこの山谷地域や慣れ親しんだ関係の中で暮らし続けたいという方

が多く入居されています。


長年路上生活を送られてきた方もいるほか、最近では山友荘で長年暮らしてきたきた方を年を重ねるにつれて介護度が上がる傾向にあり、寝たきりのような状態で暮らしている方もいらっしゃいます。

また、末期がんや老衰などで施設内でお看取りするということも増えてきています。




居住サービス以外にどのようなサービスを行っているかというと、食事の提供をはじめ、入居者の方たちが日常生活を送っていく上でのさまざまな面をサポートしています。

それぞれの入居者の方々の心身状態やニーズに応じて、介護保険制度をはじめ地域のさまざまな医療・保健・福祉サービスの利用も支援しています。

それぞれの入居者の方々に関わる専門職の方たちとチームを組んで支援にあたるというイメージです。




2.山谷地域における日常生活支援住居施設


山谷地域には日常生活支援住居施設が複数存在しています。

半径約100mのエリアに日常生活支援住居施設をはじめとする居住支援・生活支援施設が密集しています。



これらは単身生活が困難になった生活保護受給者の方などの住まいの選択肢の一つになっているほか、地域ケアを支える貴重な居住支援・生活支援資源になっています。

そして、生活の基盤となる居住支援・生活支援施設と医療・保健・介護などの社会サービスとが連携して生活を支えています。




3.生活支援とは何か


山谷地域の地域ケアを支える重要な資源のひとつである生活支援とは、そもそも何なのでしょうか。

そして、何をしていれば生活支援として成立するのでしょうか。


介護サービスの方たちは、それぞれの入居者の方々のニーズにあった形でケアを行ってくださっていますが、24時間365日それぞれの入居者の方たちの傍にいられるわけではありません。例えば、ヘルパーさんが来ない時間に排泄の介助などが必要になるときもあるわけです。

こういったときの対応なども山友荘の生活支援スタッフは行っています。これが、生活支援。

というわけでもないです。


薬を飲み忘れてしまうので、薬を飲むタイミングに渡してあげる。

そのほかにも医師などからの健康指導をふまえて、日常の健康管理を行う。

もちろんなるべく健康でいてほしいとは思ってはいますが、しかし、それをしていれば生活支援というわけではありません。


それでは、医療や介護、福祉のニーズが高い人たちが入所するから、医療・介護サービスや福祉サービスの情報提供や利用する上での手続きなどを手伝う。これこそ生活支援。というわけでもありません。


それでは、生活支援とは何なのでしょうか。

多岐にわたる行為があるけれど、生活支援として最もやらなければならないことは何なのか。

これは3つあると考えています。


<1.理解すること>


それは、相手を「理解すること」だと思います。

理解するというと言葉では簡単ですが、相手のことを客観的に把握可能なものだけでわかった気にならない、自分の都合のよいようにわかろうとしないことだと思います。


人間はそれぞれ別の認識世界の中で生きています。

私たちは、同じ言葉を使っていても、それぞれにイメージをすることが違って、すれ違いや行き違いが起きるということを日常的に経験しています。

このイメージの多くは今までの経験から想起されるものなのでしょうが、今までの人生経験の積み重ね、そこで感じてきた感情、今まで得てきた知識などによって認識世界が作り出されているのだと思います。


そうすると、そもそも他人のことを理解するということ自体がとても難しい作業なわけです。

その難しい作業を行うためには、相手に見えている世界を一緒に見ようとすることが大事なのだと思います。

反対に、支援する側の世界に「こっちに来なさい」となると、相手との摩擦や軋轢が起きてしまいます。おそらく、支援する側の認識世界が世の中的には「もっともらしい」ことの方が多いのでしょうけれど。

何にせよ、そうではなくて、相手の認識、問題に思っていること、感じていることから寄り添い、伴走することで、ゆっくりと右往左往ではありながらも、相手の認識世界は拡がっていきます。

そして、「もっともらしい」世界との摩擦、おそらくこれが生活問題として表面化してくるのでしょうけれど、それを少なくしていくことがそのうちできるのかなと思っています。


<2.対話すること>



ふたつ目は「対話すること」。

医療、福祉、保健、看護など生活課題を解決する専門性やもっともらしい世界と本人との世界を行き来する、橋渡しをするということです。

医者であれば患者という治療が必要な人という認識で相手と対峙するのでしょうが、私たちは違います。

病気を抱えた方、障害を抱えた方である以前に、一人の名前を持ち、今までの人生の歩みのなかで様々な喜怒哀楽を味わってきた人間です。そうした一人の人格を持った人間として対等に向き合うことが私たちの立場だと思っています。

そうすると、「こうしなさい」、「ここを直さないといけない」というような指導や矯正といった関わりではなくなります。


<3.人との関わりを豊かにすること>



最後は「人との関わりを豊かにすること」です。

人の生活は、関係の連鎖によって営まれています。介護や医療のサービスを提供する人との関係だけではありません。

支援する立場の人間との関係だけでなく、そうではない他者とのつながりや地域とのつながりを、先ほどと同じようにそれぞれの世界を行き来し、橋渡しをしていくことで、豊かにすることが私たちの仕事だと思っています。



私たちの支援する生活や暮らしというのは何なのでしょうか。

日常生活支援住居施設は、住まいと日常生活支援を提供しているわけなのですが、住まいを喪失した方に住まいを提供し、施設の中での生活を支えていくことは大前提として、居住、つまり地域社会のもつ環境条件や人々のネットワークを含む空間とそれらとの相互作用の空間まで捉えていくことが大切なのだと思います。




それでは介護サービスが入らない時間帯の介助や、薬の管理、福祉サービスの利用援助のような行為はしなくていいのかというと、そうではありません。

では、これらの厚意は何なのかというと、今まで書いてきたような生活支援が行われるための機能や手段、プロセスとして位置付けられると考えています。



4.地域ケア連携をすすめる会の取り組み


山友荘で行われる生活支援は地域のネットワークにも支えられています。

そのネットワークをいかにつくっていくか、もしくはそれにいかに参画していくのかということも重要なことです。

そのために行っているのが「地域ケア連携をすすめる会」の取り組みです。


地域ケア連携をすすめる会は、2008年に山谷地域および近隣で居住支援や生活支援、就労支援などさまざまな活動を行うNPOや、訪問看護ステーション、介護事業所、病院やクリニック、地域包括支援センターなどの関係者が参加して始まった取り組みです。

この会は、台東区、墨田区、荒川区など山谷地域およびその周辺の路上生活者や生活保護受給者など生活が困難な状況にある人々に対し、居住支援や生活支援、医療・看護・介護などの社会サービスの事業者が連携し、安定した住居と生活、およびよりよい医療・保健・福祉サービスを提供するネットワークの形成を目的としています。




たしか、この会が設立された頃は高齢であったり、障害があったりすることなどにより単身生活が困難となった低所得者や生活保護受給者で社会的入院状態にある方の受け皿となっていた山谷地域の無料低額宿泊所をはじめとする居住支援施設と、地域の在宅医療、在宅介護サービスとの連携が活発になってきたころで、それぞれの立場の理解を深め、意見交換や情報交換を行う機会が求められていたことからこの取り組みは始まったと記憶しています。

山友会も事務局団体としてこの取り組みに参加しています。




6団体・事業所による事務局会議で地域の関係者との集まりである運営委員会でとりあげるテーマを決定し、運営委員会において参加者間で意見交換を行うということを繰り返しています。

さらに年に1回、1年間の意見交換や議論を社会に還元するためにシンポジウムも開催しています。


地域の課題を共有しつつ、その課題にどう向き合っていくのかと地域のネットワークで考えていくという感じです。

この数年は災害時の対策、新型コロナウイルス感染症への対応などについて意見交換や情報共有を行ってきました。

地域としてまとまった解決策は出せなくとも、問題意識を共有した上でそれぞれが地域課題に対して向き合っていくことにつながっているのかなと私は思っています。





5.日常生活支援住居施設が地域にもたらすもの


最後に、日常生活支援住居施設が地域に何をもたらすのかということについて考えてみたいと思います。

日常生活支援住居施設は、単独での居住が困難な生活保護受給者が入所対象として想定されています。

日常生活支援住居施設の仕組みの中では、要介護状態にある方、障害を抱えている方、精神障害や精神疾患を抱えている方、刑余者の方などの「重点的要支援者」とされる人たちです。



こうした人たちが、社会的に孤立し生活に困窮したことで住まいを喪失したり、不安定な居住状態にあったりする一方で、利用できる居住資源の供給が乏しい現状があります。




とくに高齢であったり、障害を抱えていたりする方は病院を転々とする「社会的入院状況」におかれたり、住み慣れた地域を離れて都市部より安価な地方の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅に入所したりすることが起きています。

(本人が希望する施設であれば、それはそれでよいのでしょうが…)


こうした人々の存在は社会的に孤立しているがゆえに、地域社会から見えづらくされてしまっています。

日常生活支援住居施設によって、こうした人々への居住や生活支援を地域に確保することによって、地域社会にその存在があらわれる。




そして、それぞれのニーズに応じたフォーマルサービスを利用することによって、福祉的なニーズが可視化されることになります。さらに、地域での暮らしを実現することで、地域住民との関係がうまれる。ともすれば、その関係は苦情や偏見などの摩擦からはじまるのかもしれない。


それでも、相互理解に向けた働きかけがあることで、なかにはその関係が道に迷ってしまった認知症の方を一緒に探してくれるようなインフォーマルサービスや互助に発展したり、施設からアパートなどで地域での単身生活に移った後に見守ってくれたり、気遣ってくれたりする存在になるのかもしれない。


反対に、日常生活支援住居施設の利用者がボランティア参加などによって、地域を支えていく存在になる可能性もあります。ボランティアなどというわかりやすい人助けでなくとも、あいさつをする/されることや、何気ない会話によって、同じ地域で暮らすの誰かのこころをふっと軽くしてくれるのかもしれない。


そして、地域生活を積み上げていく実践の先に、地域社会から孤立しさまざまな生きづらさや困難を抱えた人への理解が深まり、地域としてのケア力が高まり、さかんに喧伝されている「地域共生社会」や「社会的包摂」というものに近づいていく。


地域社会における日常生活支援住居施設の取り組みがもたらすものには、こうした地域社会への波及効果があるのではないかと思っています。


(副代表 油井)


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