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鬼はどこにいるのか

副代表の油井です。


マンスリーサポーターとして山友会の活動を応援してくださっている皆さまに、年に2回のニュースレターの中に、コラムとして山友会の活動にかかわることや、活動をとおして気付いたことや考えたことなどをお届けしていきたいと思います。


10月に台風19号が東日本を通過し、各地に甚大な被害がありました。

この台風の被害により、大切な人を亡くされた方に、心よりお悔やみを申し上げます。

そして、いまもなお復旧の最中にあり、大変な生活を送られている方々に、お見舞いを申し上げます。


多くの方々が報道などをとおしてご存じのとおり、10月12日に台風が接近している中で、台東区内の自主避難所に避難した路上生活者が受け入れを拒否されるということがありました。

区民ではないことを理由として路上生活者の受け入れを拒否した判断に非難が殺到。

報道やSNS上でも大きな話題となりました。


台東区にも多くの意見が寄せられましたが、区の対応への批判が7割あった一方で、「区の対応が間違っていない」という声が3割あったそうです。※1


とくにSNS上では、賛否両論あった中で、区の対応を擁護する声も多かったことも踏まえる※2と、ホームレス状態にある方たちへの偏見を持った人々の存在は、区の判断に少なからず影響を与えていたのではないかとも考えられます。(とはいえ、受け入れを拒否した判断が正当化されるわけではないですが)


住民ではない路上生活者を避難所で受け入れる必要はないという意見が一定数存在していたということは、行政が路上生活者を避難所へ受け入れる方針を示したとしても、実際の災害時には路上生活を余儀なくされている人々が避難所から排除されてしまうことや、避難所で負い目を感じながら過ごさなければならないことが起こりえると考えられます。


つまり、行政が変わるだけではこの問題を根本的に解決できないのです。


実際、1995年の阪神淡路大震災の際にも、ホームレス状態にある人々が避難所から退去させられることや、他の被災者の目を気にするなどで、危険な路上生活に戻らざるを得ないことが起きていたり、配給物資を受け取れなかったりすることが起きていたようです。※3、※4


この一連の報道を眺めていてこの広告を思い出しました。





日本新聞協会が実施した「2013年度 新聞広告クリエーティブコンテスト」で最優秀作品に選ばれた広告です。


「めでたし、めでたし?」というタイトルのこの広告。


”ある人にとってしあわせと感じることでも、別の人からみればそう思えないことがあります。反対の立場に立ってみたら。ちょっと長いスパンで考えてみたら。別の時代だったら。どの視点でその対象を捉えるかによって、しあわせは変わるものだと考えました。”


と、受賞者はコメントの中で述べています。


ご存じのとおり、桃太郎の話は、鬼という悪者を退治する話です。


鬼を退治して「めでたし、めでたし」かと思いきや、愛らしく描かれたこの鬼の子は、父親を退治した桃太郎を恨み続けるのかもしれない。

もしかすると、大きくなったこの鬼の子は、よりいっそう乱暴や略奪をはたらこうとしてしまうのかもしれない。


つまり、鬼という「悪」を退治したことは、桃太郎の世界において長期的には根本的な解決に至っていないことも考えられるということです。


閑話休題。


この避難所問題との向き合い方によっては、行政に制裁を加え、表面的に解決したことにしかならない可能性があるということです。


受け入れを拒否する判断の背景には何があったのか、何が影響していたのか。

そして、再び同じようなことが起きないのは言うまでもなく、今回の台風以上の大規模災害が発生し、インフラや都市機能が停止したような場合においても、ホームレス状態にある人々と共に生き抜き、復興に向けて歩むことができるか。


そう考えれば、「ホームレスが避難所での受け入れを拒否された」という出来事によって変革を促されているのは、台東区という行政機関だけではないはずです。



桃太郎が本当に退治すべきだった「鬼」は、どこにいるのか。


それは、社会的に異質な存在から目を背け、蔑む理由を思わず探してしまう私たちのこころの中なのかもしれません。

そして、不都合な問題や目をそむけたくなる現実を、都合のよい何かや、誰かのせいにしてしまう私たちのこころの中なのかもしれません。


副代表 油井


【参考資料】



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